親知らずについて
親知らずとは20才歳前後で生えてくる(かなり個人差があります)前から数えて8番目の歯になります。第三大臼歯や智歯(英語でもwisdom teethという)とも呼ばれます。顎の中では10歳前後から作られ始めます。
親知らずという名前の由来は諸説ありますが、昔の人間(江戸以前)の平均寿命は40歳ほどで、当時の子供にその8番目の歯が生えてくる時には親が亡くなってしまっていて、親が知らない状況になってから生えてくることから親知らずと言われる説が有力です。
智歯という名前の由来はその子供が人生を生きる上で十分な知識を得た状態になって生えてくるからという説が有力です。
親知らずと歯並び
よく、「親知らずが手前の歯を押して歯並びが悪くなってしまう」と聞くことが多いかと思いますが実際はどうでしょうか?
答えはケースによるというところになります。そもそも親知らずに限らず、歯は少々前のめりに生えているので咬むという行為そのものが歯を前へ前へと力がかかってしまいます。なので同じ人で20代と70代の時では後者の方が歯並びが悪くなる傾向があります。
一方で親知らずが生えてくることで手前の歯を圧迫して歯並びが悪くなってしまうケースもあります。傾向として顎が小さく、親知らずが出てくるスペースがなく、横向きで手前の歯に近接しているケースです。このような場合は矯正医とも相談し、抜歯を検討することも視野に入れます。
矯正の際の親知らず抜歯の意味(後戻り)
矯正治療の中で後戻りという歯を一度きれいに並べたのに再びガタつくように動いてきてしまうケースがあります。
これは前述のように咬む行為そのものが要因となり得ることころもありますが、高校生までに矯正治療を終えると20歳あたりの親知らずが生えようとすることで歯並びに影響が出る場合があります。したがって歯並びの維持を重要視するならば親知らずの抜歯は後戻りのリスクを下げる行為と言えます。
親知らずの痛みの原因について
親知らずは何かと痛みを伴います。それにより口の中で大変なことが起きているのではないかと感じてしまうかもしれません。痛み方として様々なパターンがあります。
1. 生えることによる痛み
これは親知らずに限らないことですが、歯が生えてくるとき、歯茎を突き破って出てきます。その際、歯茎の周囲は汚れが溜まりやすく炎症がたびたび生じます。これはある程度仕方のない痛みである側面もあり、必要があれば痛み止めを用いることもあります。
2. 上の歯が当たる
これは上の親知らずが生えてきて、かつ下の親知らずが生えようとして歯茎が盛り上がり咬むとぶつかるようになり痛みを伴うケースです。これは上の歯を抜いてしまえばスッキリと痛みがなくなります。
3. 智歯周囲炎による痛み
これは親知らずが生えてきてその周囲の歯磨きが上手くいかず汚れが落とせないために細菌感染を引き起こし歯茎が炎症を起こす状態です。時に親知らずが横向きに生えてしまったり、中途半端に一部分だけ顔を出すような生え方をしてしまうと歯ブラシ汚れが取りづらくその炎症を起こすリスクは高いです。炎症が激しく、眠れないようなとても強い痛みを伴う際、当日は抗生物質、痛み止めを処方し後日症状が引いてきたら抜歯をするかどうかご相談させていただくことを検討します。
強い痛みを伴う当日は炎症が激しく、そのような場合は麻酔がまず効かないため抜歯処置を即座に行うのは非常に危険です。
4. 親知らずもしくはその手前の歯の虫歯
3のような状態ですと親知らずやその手前の歯が虫歯になってしまうケースも散見されます。特に歯ブラシが難しいので虫歯が深刻に進みやすい、親知らずのみならず、手前の7番目の歯も道連れにしてしまいやすいことです。虫歯が神経まで到達するととても強い自発痛が生じるのでこの場合は親知らずの抜歯と7番の根管治療が必要でそれなりの期間の通院が必要です。
親知らずによる症状
上記でお話しした原因で親知らず関連の痛みはありますが、特に3の智歯周囲炎を長期で放置してしまうと様々なトラブルに見舞われます。
・腫れ
炎症が激しくなると大きく腫れて膿が溜まる場合があります。また、炎症と関連してリンパ節(免疫を扱う機管、主に首のあたり)が腫れる場合もあります。
・痛み
炎症の強さに応じて強い痛みを伴います。智歯周囲炎の場合は腫れと自発痛を伴い、虫歯の場合始めは冷たいものでしみる症状が出て、虫歯が大きくなると強い自発痛を伴います。
・頭痛、のどの痛み
痛みを放置し続けると炎症の範囲はどんどん広がり、頭痛やのど辺りまで痛みを伴います。これは親知らずを中心に痛みの範囲が同心円状に広がるようなイメージでそれが頭の一部やのどまでの痛みになります。
・開口障害
前述のような状態で炎症が広がると当然顎関節(耳の近く)まで波及します。そうする と口を開けにくい、開けようとすると痛むといった症状を伴います。
親知らずの抜歯について
抜歯すべき最適な時期は一般的に20~30代と言われます。
親知らずの歯根が完成し埋まっているとしてもその人の中で一番歯茎から出ようとするのが20~30代であり、それ以降の年齢ではほとんど動きはありません。(ただし、重度歯周病に罹患するとまた別の状況となります。)
また、50代にさしかかると顎骨が硬化する傾向があり、骨が硬いと抜歯処置が難しくなる傾向があり、さらに年齢を重ねるといろいろな病気にかかってしまう可能性もあり、歯科治療自体が難しくなり、若いうちに抜いていけばよかった、となってしまうこともしばしばあります。
抜歯の難易度について
1. まっすぐに生えている場合
抜歯の難易度 | 比較的容易です。 |
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抜歯にかかる時間 | 30~45分ほどのアポイント時間をいただきます。 |
抜歯の費用 | 保険適応で管理料を含めて2000~3000円ほどになります。 |
2. 横向きに生えている場合
抜歯の難易度 | 中程度~難しいです。 |
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抜歯にかかる時間 | おおむね一時間ほどを見ますが、根っこが複雑な形をしていたり顎骨の状態でそれ以上時間をかけてしまう場合もあります。 |
抜歯の費用 | 保険適応でおおよそ3500~4500円ほどです。ただCT撮影を伴うことも多々ありますのでその場合はさらに3400円ほどかかります。 |
3. 完全に埋まっている場合
抜歯の難易度 | 非常に高難度です。 多くのケースで大学病院へ依頼させていただきます。 |
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抜歯にかかる時間 | 一時間半以上は想定します。 |
抜歯の費用 | 大学病院でCTを伴うと15000円ほどで、さらに特殊な麻酔が必要になるとさらにかかります。 |
抜歯をお勧めする場合はどんなケース
- 周辺の歯茎が腫れたりいたんだりするのを繰り返すケース
- 親知らずもしくはその手前の歯に虫歯を作ってしまうケース
- 手前の歯の間にやたらと食べ物が入ってしまうケース
- 上記の症状が無くともリスクがあると判断されるケース
必ずしも抜歯しなくて良い場合はどんなケース
ここまで親知らずに関してネガティブなお話が多かったかと思います。親知らずだから必ず抜歯しなければならない、ということではありません。
ひとつは上下の親知らずが普通の向きで生えていてしっかり咬合しているケースです。これはかみ合わせを確立する上で手前の奥歯などを補助してくれる役割を果たしてくれます。ただ、そのようないい状態で生えてくれるケースはそれほど多くありません。
もうひとつは顎骨の深いところに埋まっている親知らずです。あまりに奥深く埋まっている場合はお口に中の歯に対してほぼ影響を与えません。その場合はそのまま経過観察とします。
親知らずを抜歯する際の医院の選び方
重要なところとしてはCTを撮影して治療を行っているか、です。
親知らずの抜歯は様々なリスクを伴います。上の親知らずの場合、副鼻腔炎を起こしたり、下の親知らずは周辺組織の麻痺が出るなどそして麻酔をした観血処置なので、麻酔中毒、出血量が多いことによる貧血など急に具合が悪くなることがあり得ます。
まず画像診断で患者様それぞれが異なる大きさ、形をしていてその違いをきちんと把握し、注意して抜歯承知を行う必要があります。CTはその情報量がたくさんあり、実際に処置に臨む前に多くのことを把握できます。したがってそれが可能な医院は比較的安全に処置を行いやすいです。(もちろんきちんとした診断能力が必要ですが)
あとは処置中に急に具合が悪くなってしまうリスクはどうしてもあり、その際に適切な対応を行えるかです。具体的に口腔外科に強い先生が在籍しているかAEDやパルスオキシメーターなどの術中管理装置を備えているかです。
当院ではCTを完備しており、週一日は口腔外科で研修を積んだドクターが勤務しており術中管理装置も備えております。
抜歯後の注意点(腫れ、痛み止め、その他)
抜歯処置後はいろいろな注意点があります。
・抜歯した傷口の感染と痛み
抗生剤と痛み止めを投与しコントロールします。
・腫れ
基本的にはそのままお過ごしいただきます。横向きの親知らずの抜歯の場合、腫れのピークは抜歯後2~3日です。また腫れの程度は処置の際の侵襲の大きさ、患者様の個人差もあります。
抜歯当日は運動、飲酒は控えていただき、入浴はシャワー程度を推奨します。つまり血流が良くなる行為は血の止まりが悪くなるため、なるべく控えていただきたく思います。傷口が大きい場合縫いますが大体一週間後に糸取りが必要になります。
親知らずを抜歯する際の流れ
歯が横向きで多くの部分が埋まっているケースで申し上げます。
まず麻酔を行います。ひとつは抜歯する歯(患歯)の周囲、もうひとつはお口の奥です。後者の麻酔は下顎孔伝達麻酔といい、下顎管と言われる下あごの広範囲の感覚を司る神経でそこに麻酔を効かせます。広い範囲がしびれ、舌も半分がしびれる感覚になります。
麻酔が効くと患歯周囲の歯肉に切開を入れます。そして歯を取り巻く骨の状態を確認します。しっかり巻き付いている場合は骨を一部切削します。
患歯が手前の歯に引っかかる際は歯冠(歯の頭の部分)を切断し、空間を作り、歯を抜去します。歯根が二股の場合それも分割してから抜去します。
抜歯処置が終わると、歯肉を縫合します。
・抜歯後の腫れについて
上記の術式の場合、なんとなく顔が左右対称じゃないような...という程度の腫脹はあるかと思います。切開の範囲、骨の削除量が大きいほど腫れは大きくなる傾向があります。
腫れのピークは抜歯後3日目前後です。腫れが大きくなると抜歯後の痛みは軽減する傾向があります。また、腫れが引くと青あざ、黄色いあざ(黄疸)のようなものができることもありますが、これは腫れた後の治癒経過として生じますのでさほど心配はいりません。
・危険な腫れ方について
あまり頻度は高くありませんが、あまりに明らかな左右非対称、出血を伴う腫れ(通常は腫れるころには血は止まっているケースがほとんどです。)などは処置した病院に問い合わせる方がよいと思います。
また、腫れとはまた別ですが、ドライソケットと言われる抜歯後に疼痛が続く症状が出る場合もあります。通常は抜歯後抜いた後の穴に血液が溜まり、かさぶたが出来、治りますが、その血液が少ない、抜歯直後に頻繁にうがいをしてかさぶたを壊してしまう場合などで生じやすいと言われます。抜歯窩の治癒が甘く、骨が見えてしまったりするケースもあります。
親知らず抜歯でよくあるご質問
Q. どんな時、親知らずが痛くなるのか?
A. 大きく分けて2パターンあります。
①親知らずに虫歯が出来てしまうケース
これは通常の虫歯と同じなのではじめは冷たいものなどで染みたりし、虫歯が進行すると強い自発痛を伴うことがあります。
②親知らず周囲の歯茎が細菌感染し炎症を起こして痛みを伴うケース
これは先述の智歯周囲炎のよるところとなります。
Q. 親知らずはなぜきちんと生えないのか?
A. これは矯正治療の項目でもある歯並びにも関わるところですが、人それぞれ顎に大きさ、歯の大きさがあります。
例えば小さい顎に大きい歯が生えてくると歯の大きさに対して顎がスペース不足になります。そうすると歯同士が重なるような生え方をしてしまい、前歯がいわゆるガタガタした歯並びになります。そのような歯列では奥歯も並ぶスペースが無く、一番最後に生えてくる親知らずが割を食ってしまいきちんと生えることができないのです。
そのため、親知らずがきちんと生えないことと歯列不正は密接な関係があると言えます。
Q. 親知らずはまた生えることがありますか?
A. 親知らずは8番目の歯になります。通常歯は8番目までですが、さかのぼれば類人猿のころは9番目、10番目の歯もありました。現代人は8番目まで(人によっては7番目まで)で退化してるケースがほとんどですが、進化の過程の流れでまれに9番目、10番目の歯が存在する人もいます。
そうゆう意味では親知らずを抜いたのにまた生えてくる、といった現象も起こり得ると言えます。
Q. 親知らずの抜歯前の注意は?
A. 抜歯処置当日はとにかく健康であることが必要です。体調不良のままで処置を行うと術後具合が悪くなったり、感染症にかかるリスクが上がります。それを避けるためには事前にある程度規則正しい生活習慣を行っていただいて体調を整えていただくと安心です。
Q. 抜けなくて途中で中止されることはありますか?
A. 基本的にそのようなことは起きないよう細心の注意を払って診断から処置まで行いますが、処置を始めて想定外のことが確認され、技術的に歯を抜くことができない、患者様が処置中に具合が悪くなってしまい、やむなく中断といったことは起こり得ます。
そのような場合に術後痛み出ないように歯を残した状態でも歯周組織の復元を行ったり、鎮痛薬を用いて、その害を小さくするよう努めます。そして後日再度行うか、場合によって口腔外科専門の施設への紹介を提案させていただきます。
Q. 親知らずが虫歯になると抜歯は難しいですか?
A. 親知らずに関わらず、歯周組織がしっかりしていてかつ虫歯は大きく進む歯の抜歯は非常に難しいです。
抜歯時、歯にヘーベルと呼ばれるへらみたいな器具で歯を圧迫し、骨とのつながりを緩めて抜歯していきますが、その際に歯に力をかけたとき、歯が崩れてしまいやすいです。それを繰り返していくと歯の根っこだけが骨内に残り、摘出が非常に難しくなります。
Q. 親知らずを抜くと小顔になりますか?
可能性としてはあり得ます。親知らずの抜歯の際、顎骨を削る場合がありますが、それによって顔の輪郭がわずかに小さくなる可能性はあります。
実際、整形手術でも顔面に関わる骨を削る処置もあります。しかし、抜歯は整形を想定して骨を削るわけではありませんので、理想的な小顔に向かうとも限りません。また、輪郭に影響を与えるほどの骨量はそれなりに多く、そこまで削るようなケースは非常にまれです。